Cloud computing(クラウド・コンピューティング) 英エコノミスト誌記事

エコノミスト誌2008年2 月7日号掲載記事"When clouds collide" が面白かった。


記事は、マイクロソフトによるヤフー買収提案に関するものである。この記事で、cloud computingクラウド・コンピューティング)という言葉を知り、興味をもって読んでみると、今、IT業界では、データ/情報流通を握る熾烈な競争が起きていることがわかった。


考えてみると、グーグルで検索するということは、国際電話をかける時にNTTの0033をダイヤルするのと同じだ。昔でいえば、電話交換手にダイヤルすることに相当する。「電話交換手」は、「電話帳」を調べ、目的の相手につないでくれる。それと同じことを、グーグルの検索はやってくれている。グーグルのデータセンターが「電話交換手」に相当し、世界中のどのサイトにどんな情報があるかをすぐに探せる機能が「電話帳」に相当する。つまり、グーグルはデータ/情報コミュニケーションにおける「交換手」機能を果たしており、その「電話帳」が優れているから、みんながこの「交換手」を利用してくれている、というふうに理解できる。


そして、その交換手としてどう稼ぐかというところが、広告というわけだ。交換手が目的の電話番号を教えるついでに、それならこんな情報はいかが?と言える絶好の広告宣伝の「場」を広告主に提供し、その場所代を稼ぐ。


話は脱線するが、これを書きながら思い出したのが、90年代にアメリカにあったCendantという企業だ。Howard JohnsonやRamadaやDays InnなどのモーテルチェーンやレンタカーのAvisなどフランチャイズビジネスを行うHFS社とオンラインショッピングのCUC社が合併してできた会社だ。そこのコールセンターの仕事のひとつが、交換手による広告宣伝だ。例えば、フロリダでレンタカーを借りる、ホテルを予約する、そういう顧客に対して、観光先のサンセットクルージングを案内する。この的を絞り込んだ広告宣伝ができるというのが、合併により見込まれたシナジー効果であった。グーグルにしてもCendantにしても、情報流通の中に入っていき、情報の中身を知ったうえで的確なマーケティングの場を提供し稼いだ、という点は共通だ。違うのは、その規模と質だ。しかもその差は圧倒的だろう。因みに、現在はCendant社は個別のビジネスに解体されているので、このかつてCendant社コールセンターのターゲットを絞り込んだ広告宣伝は、グーグルにある部分は取って代わられているのだろう。


ところで、データ/情報流通のインフラの面を考えると、今は、流通ネットワーク自体にボトルネックはなく、大量の情報がいつでもどこでも流通できるインフラが整っているといえよう。しかし、約10前を思い出すと、90年代後半にインターネットの登場で、通信網の至るところでボトルネックが発生し、通信各社が光ファイバー網敷設等による容量確保に懸命になっていた。例えば、ワールドコムが全米バックボーン回線をもつMCIを買収したのも、その頃だったと思う。通信網というインフラ面でのボトルネックが解消された今は、データ/情報流通を握るのは、有能な「交換手」である「検索機能」ということなのだろう。


さて、今回初めてcloud computingクラウド・コンピューティング)という言葉を知ったので、勉強のために記事の全訳を試みた。ただ、やはり理解できないところがあるので、他に気がついていない点も含めて、間違いやコメントをして頂ければ嬉しい。



エコノミスト誌2008年2 月7日号掲載記事 
http://www.economist.com/business/displaystory.cfm?story_id=10650607

Microsoft v Google

When clouds collide 
(題)クラウドが衝突する時
Microsoft's bid for Yahoo! is not just about online advertising
(副題)マイクロソフトのヤフー買収の狙いはオンライン広告だけではない。


(1段落目)
二つの雲が衝突するといっても穏やかなものだが、テクノロジー業界のデジタル分野では別だ。しかし、そういうふうに雲が衝突するというのが、世界最大のソフトウェア企業であるマイクロソフトが、経営難にある巨大なオンライン企業のヤフーに対して446億ドルというべらぼうに高い値段で買収をしかけた、という理由を考えようとする時には、一番理解しやすいイメージかも知れない。コンピューターの利用がオンラインでの利用になるにつれ、企業の競争力と資金力の源泉は、ますますインターネット上に存在する巨大な「コンピューティング・クラウド(雲)」(専門用語)になりつつある。ヤフー買収の狙いは、マイクロソフトの「クラウド」を膨らまし、最後には最も危険なライバル、グーグルの「クラウド」に匹敵させることを目的としている。


(2段落目)
確かに、この合併は、2000年のAOLとタイムワーナーの不運な統合以来のインターネット業界最大のものとなるだろうが、まだ成立には遠い。この号が印刷される時点では、ヤフーはまだ正式にはこの申し入れに回答しておらず、検討中であると言っていっただけだ。実のところ、ヤフー経営陣は、マイクロソフトからの前回の申し入れを断っており、買収に代わる方策、たとえば事業売却などを調査し、またグーグルとの提携を検討すらしていると言われてきた。対抗ビッドもあり得るが、これまでのところ、豊富な資金力のマイクロソフトと買収で争おうとするものは現れていいない。マイクロソフトの提示価格は一株あたり31ドルであり、買収が明らかになる前の終値に対して61%のプレミアムがのせられている。また、反トラスト法に関する調査も避けられず、特にヨーロッパにおいては時間がかかると考えられる。


(3段落目)
もしマイクロソフトがヤフーを買収したとしても、AOLとタイムワーナが経験したように、合併後の統合にリスクをはらんでいる。(今週、タイムワーナーのJeff Bewkes新社長は、AOLの縮小しつつあるインターネットアクセス事業を売却する計画を発表した。)マイクロソフトは重複する製品やサービスを統廃合する必要があり、企業文化の問題も克服しなければならない。ヤフーはオンラインメディア企業として、遊び心を誇り、オープンソーステクノロジーの上にビジネスを構築してきた。一方で、マイクロソフトはハードワーカーオタクが自前のソフトウェアを売ることで儲けている。だから、この二つの企業のテクノロジーインフラを統合して効率化するのは難しいだろう。


(4段落目)
マイクロソフトはこれらはすべて承知済みのことだから、それでもヤフーを買収したいというのは、グーグルに追いつく必要があることを自ら認める以外の何ものでもない。グーグルは検索エンジン会社であり、さらに、巨大なコンピューティングクラウド、つまり、オンラインサービスを提供するハードウェア、ソフトウェア、人材のネットワーク、を構築した最初の会社でもある。グーグルの広大なデータセンター、いわば情報発電所においては、何十万台ものコンピュータがみごとに一体化されている。グーグルは、ユーザーとウェブから膨大なデータを集めている。そして、頭のいいエンジニア軍団を雇い、これらのデータリソースを活用した新しいサービスを開発させている。


(5段落目)
最も重要なことには、グーグルはこの「クラウド(雲)」から稼ぐ方法を見つけた。サービスを提供することで、広告対象を絞り込んだ広告のための場を創造している。多くの場合は、ユーザーが検索する事柄に関連した広告を掲載できる小さなテキストボックス(画面上の入力スペース)を設けている。このテキストボックスはオークション方式で売られている。もし、ユーザーがこの広告をクリックすれば、広告主はグーグルに手数料を払う。このグーグルの仕組みは好循環を生む。最大の検索エンジンであるので、グーグルはより多くの広告主をひきつけ、より検索ユーザーにぴったりとした広告を掲載できる。そして、より多くの検索ユーザーや広告主を集めることができる。


(6段落目)
近年、マイクロソフトは自分で同じようなコンピューテイングクラウドを創ろうとしたことがある。マイクロソフトはインフラに大きく投資し、世界中にデータセンターを建設した。さらに、グーグルのサービス、特にインターネット検索に追いつこうと頑張った。最近、画面広告(検索ベース広告よりは小さいものの、急成長が期待されているオンライン広告市場のひとつ)でのポジションを強化した。5月にはマイクロソフトは、オンライン広告代理店のaQuantive社を、グーグルが画面広告のトップ、ダブルクリック社の買収を決めた後に、買収した。


(7段落目)
しかし、そうした努力の成果はわずかしか見えない。たとえば、検索市場の世界シェア(2007年12月)は、マイクロソフトの2.9%に対して、グーグルは62.4%、ヤフーは12.8%である。マイクロソフトのオンラインビジネスはまだ利益を生み出していない。マイクロソフトの経営陣がもっとも心配するのは、グーグルがオンライン広告においてリードし、この重要な市場を、特にダブルクリックの買収が完了した後に、独占してしまう可能性がある、ということだ。マイクロソフトによる熾烈なロビイング活動にもかかわらず、米国規制当局は買収を承認し。欧州当局も追随が予想されている。


(8段落目)
マイクロソフトはかつて競合他社が長期にわたってウィンドウズOSと戦えないようにし、反トラスト法訴訟で重要な役割を果たした優位性をもっていたが、皮肉にも、グーグルは同様の優位性を享受してしまうとマイクロソフトは主張している。あまりにも多くのソフトウェアがウィンドウズ上で動くように作られるので、OS市場への参入は困難なのだ。同様に、もしあまりにも多くの出版社や広告主がグーグルのオンライン広告プラットフォームを採用すると、競合他社は現実味のある競争を仕掛けることができなくなってしまう、とマイクロソフトの内部文書が記している。


(9段落目)
ダブルクリックをグーグルの手から遠ざけることができなかったので、マイクロソフトは、グーグルが圧倒的に強くなるのをヤフーに防いでほしいと考えている。もし、成功すれば、ヤフー買収によってマイクロソフトクラウドは、グーグルの規模には届かないものの、拡大するだろう。両社で月間アメリカで290百万以上のビジター(グーグルを若干上回る)をウェブサイトにひきつけることができるだろう。それでも、マイクロソフトとヤフーの両社で、検索広告で18%、ディスプレイ広告で30%の市場シェアしか得られない。


(10段落目)
それでも買収できれば、マイクロソフトは他の分野でもより大きな影響力を得ることができるだろう。ひとつは、ウェブメイル。米国市場で80%となる。インスタントメッセージの世界でも同様に支配的になろう。ヤフーはフォトシェアリングのサイト、Flickrのような多くのサービスを持っているので、マイクロソフトは世界最大のインターネット登録ユーザーのディレクトリーを支配することとなる。このディレクトリーは、新たなクラウドベースのサービスを開発する際の価値ある資産である。


(11段落目)
にもかかわらず、、グーグルにとってこの買収は朗報かもしれない、少なくとも短期的には。グーグルは確実にヤフーの最優秀の社員の引き抜きにかかるだろう。統合に経営陣は労力を奪われ、時間を食われるだろう。グーグルはすでにロビー活動を開始し、インターネットのイノベーションが損なわれかねないと訴えることで、合併を阻止しようとしているが、マイクロソフトもヤフーもここのところ革新的なイノベーションをもたらしているわけではない。それよりも、グーグルがイノベーションに邁進するかわりに、イノベーションへの脅威を訴えれば訴えるほど、ますますかつてのマイクロソフトのように思えてしまう。