Google Health 米クリーブランドクリニックと提携

前回のエントリーに書いたように、今、情報流通を握るために、cloud computingクラウド・コンピューティング)で優位にたつことが必須であり、グーグルがこの競争で圧倒的に強いということがわかった。

そんなことを考えていた折、2月下旬にグーグルが米国クリーブランド病院と組んで、個人の健康情報をユーザーである患者が主体的に管理し、利用できるような仕組みを作る計画があることを発表した。エリックシュミット社長によるプレゼンテーションもあった。


このニュースは興味深いと思った。たとえば:

1)Cloud computing競争
データ/情報流通を握る上で、個人の健康情報は最も価値のあるコンテンツだと思う。この仕組みが標準としてクリーブランド病院にとどまらず、全米、さらに世界に広がる可能性があると考えると、この仕組み作り=プラットフォーム作りは、グーグルの競争力をさらに強くすることになると思った。

ただ、情報管理の安全性の面から、この情報流通で広告ビジネスは行わないそうだ。しかし、いずれ、情報管理の安全性を満足させつつ、広告ビジネスも可能となる仕組みは作れるのではないか?いずれにしても、このコンテンツは情報流通を握る上で最強のものだと思う。

将来の新たなビジネス展開として、こうした医療データ/情報の管理ができるプラットフォームは、臨床試験のプラットフォームなどにも活用できないか?膨大な情報を扱い、その意味付けを求められるライフサイエンス、特に医薬品開発の世界のcomputingに参入するチャンスはあるのではないだろうか?


2)患者にとってのメリット
クリーブランド病院のCEOであるDr.Delos Cosgroveは、2008年3月発行のThe McKinsey Quarterlyのインタビューで、病院経営改革について話している。

このインタビューでは、グーグルとの提携については明らかにされていないが、患者主体の医療情報の有効活用について紹介し、医療情報は病院のものではなく、患者のものであり、患者にはその情報をもつ権利があると明言している。

"In the same spirit of transparency, as of the first of January, we opened our medical records --- what's often called "the chart" --- to patients anytime they want to see their own charts. The charts really aren't the hospital's; they belong to the patients, and we think it's their right to have that information."

同時にこうした透明性が治療にもプラスの影響を与えているようだ。たとえば、看護士のシフト交替の際に、引継ぎをナースセンターではなく、ベッドサイドで行うことで、患者もそのコミュニケーションに加える、というようなことが可能となった。

"This transparency has an effect on care, because now, when the nurses review charts during shift changes, the do it bedside instead of at the nursing station. So when they say, "Well, Mrs. Smith went for a walk this morning," Mrs. Smith jumped in, if she needs to, to say, "Oh, no, nobody got me up."

グーグルとクリーブランド病院のプレスリリースによれば、患者はグーグルの画面で、自分の医療情報を見ることができ、また保険会社、医者などとその情報を自分の裁量で見せることもできる。全国のどこからでも、いつでも情報にアクセスし、利用することができる。これが実現すれば、まさに情報を患者の手に明け渡し、患者の利益のために効率的に最大限活用することが可能になるだろう。

こうした患者主体の情報管理/利用は、ひいては医療全体が抱えるコスト問題の解決にも貢献する可能性があると思う。


3)リスク
最後に、このように個人の健康情報の流通をグーグルが握ることのリスクはないのだろうか、と感じた。

グーグルは患者の利便性の向上を目的とすることを明言しているが、どんなリスクがあるだろうか?情報漏洩は問題外としても、患者情報の膨大なデータを人工知能に読ませたりするようなことがあれば、なにか問題は生じないか?

人工知能に読ませるというのは、今回のグーグルの発表で言われたことではないが、George Dysonという技術史の専門家が、グーグルを訪問した際に、あるエンジニアと、グーグルによる世界中の図書館の本をデータベース化するプロジェクトに関して話したそうだ。そのエンジニアは、「人間ではなく、人工知能に読ませるためだ」と説明したことがEdgeでのブログNicholas Carrの著作Big SwitchのiGodの章で紹介されている。

"We are not scanning all those books to be read by people. We are scanning them to be read by an AI."

本のみならず健康情報を人工知能が読むといういことの意味はなんだろうか?少しSFの世界のような話だが、またつらつらと考えてみたい。